粥村で聞いた話

鳥を見たり見なかったり食べちゃったり

青根温泉 湯元不忘閣

10日ほど前の話。

仙台から西南西に直線で30キロ強、蔵王の麓に青根温泉というところがある。

クルマで白石から蔵王御釜に行く時などは遠刈田温泉のあたりで道を曲がってしまうのだが、そのまま直進した先にある温泉地だ。正直、息子が仙台に引っ越すまでは、その名前も聞いたことがなかった。

2年前、息子のところに行くついでに、帰りに寄れる良い温泉はないものかと探した結果、青根温泉の中でも不忘閣という宿が気になり、1泊してみた。

その時の印象がなかなか良かったので、今回、息子たちと義母を連れて再訪してみた。観光の予定もなく、もっぱらのんびりするためである。

不忘閣 大湯

伊達の時代からある石風呂を利用したという大湯伊達政宗も入ったことがあるとか。なんと有り難い。

これをはじめとして、6つの風呂が楽しめる。

 

 


6つの風呂のうち、2つが貸し切り風呂、2つが洗い場のある風呂、2つが洗い場のない風呂、だ。

洗い場がある風呂も男女に分かれていて、時間帯で入れ替わる。つまり体を洗いたければ選択肢は1つしかない。それほど広くはないのだが、そもそもそんなに大きい宿ではないので、混み合うこともない。満室だったのに。

先の大湯も、洗い場はない。どころか、脱衣所もないのがこの宿の良いところ。板の間のようになっている床はけっこう乾いていて、その端の方に脱衣用の籠が並べられている。つまり風呂場の端の方で衣服を脱ぐのだが、不思議と湿ってしまったりはしないものだ。

翌朝、5時過ぎに蔵湯という貸し切りの風呂に入る。

これは前回も入ったのだが、この宿に泊まるなら入っておくべき風呂の一つだ。

屋内に並んだ蔵の一つが、まるごと風呂場となっている。

不忘閣 蔵湯

何とも美しい風呂だ。これが若い頃だったら、彼女をひとり湯船に入れて、写真を撮りたいと思うに違いない。そのために作られたセットのようにさえ見えてしまう。そんな風呂だ。

おそらく若者たちの多くはそうしてるだろう。銀塩の時にはなかなか出来なかったことが、デジカメのこの時代なら何の迷いもなく出来る。生まれてくる時代を間違えたようだ orz

温泉に入ったら次の楽しみは食事。ちょっと写真の順番は前後しちゃってるけど。

この宿を気に入ったポイントの一つが、例によって『多すぎない晩飯』だ。元々小食な上に、帰ったらすぐに生活習慣病検診という最悪のタイミングだったので、尚更だ。

陶板焼き

これはメインの陶板焼き。地元、宮城県産の日高見牛。この歳になると、肉はこのくらいが良いねぇ。

丸茄子田楽

こちらは丸茄子の田楽。

2年前には似たような料理があったが、そちらは賀茂茄子の田楽で、海老が乗っていた。今回のはまた少し違う。しかし基本はどちらも味噌とチーズという相性の良い発酵食品同士の組み合わせなのでなかなか美味しい。良く焼けているので茄子の皮まで美味しくいただける。

ところでこのお宿、前述の通り歴史ある温泉で、なかでも青根御殿と呼ばれるこちらの建物が、象徴となっているようだ。

青根御殿

宿の中庭から見上げる青根御殿。

一度焼失してしまって昭和初期に再建されたものらしいが、それでも十分な風格がある。

樅ノ木は残った

御殿の中を案内してくれるプチツアーが、毎朝定時に行われる。前回はパスしてしまったので、今回は参加してみることにした。

前の写真の最上階の窓から見た景色。下に見えるのは、ワタクシたちが泊まったのとは別の棟にある客室。

そして、正面に見える、やや左に曲がっている樹が一本立っているのが分かるだろうか。これがモミの木である。

ワタクシがまだ記憶していない時代の大河ドラマの名作に、樅ノ木は残ったというのがあった。仙台藩のお家騒動を描いたその原作の一部を、山本周五郎はこの宿で執筆したという。おそらくは、この写真に写るモミの木を見ながら構想を練ったのではないか、とは女将の説明。

狩野探幽掛け軸

青根御殿の中には伊達家ゆかりの、かなり文化的価値の高い資料や美術品が多数保管されている。少しウェブを検索すると、これについて書いている人の多くが無造作に置いている感じのその保管状況に疑問を持っているようだけど、全く同感だ。

この写真は狩野探幽の掛け軸。お宝には違いなかろうが、その画が鳥だったので、思わず取り上げたくなった。左のはゴイサギなんだろうが、右のは何の鳥だろう?クチバシの太さと大きさから言ってカラスの仲間に見えるんだけど、カラーリングを写実的だと仮定するとコクマルガラスカササギが考えられるものの、どちらも今ひとつ合点がいかない。どなたか正解をご存じないでしょうか?

ここで客室の写真を、とか思ったのだが、なんと人が写ってないものを撮り忘れていたようだ。まぁ、今回は荷物少なめで出かけたので、レンズも単焦点の一本のみで、どうせ部屋を撮れるような広角が無かったからしかたがない。

今回は5人で泊まったが、用意してくれた客室は、十畳が二間続きとなっている、二十畳の客室。過剰である ^^;

トイレが和式であることを除けば、不満点はない。ただ、時々見られるというアナグマには今回も縁がなかった……。

さて、この宿の晩ご飯、月替わりメニューとなっている。ということは、連泊すると同じものを食べることになるのかな……、などという心配は無用だった。連泊の客には別のメニューを用意してくれる。

真鯛兜煮

真鯛の兜煮。真鯛の頬肉はとても美味しい。普段、真鯛なんて刺身かせいぜい塩焼きにしかお目にかかれないが、この頬肉を美味しく食べるなら兜煮は最高だ。付け合わせの牛蒡や大根も美味しい。

沢蟹

二泊目のメニューは不定だろうから、印刷物でのお品書きはもらえない。なのでこの沢蟹がなんという料理なのかは分からない。2年前も同様の沢蟹を使ったメニューがあったが、沢蟹以外は全くの別物。

この沢蟹は見た目を美しく保ったまま揚げられており、噛めばパリパリと軽い歯ごたえ。息子たちも見た目と食感を楽しんでいたようだ。

ところで、この宿で一番心配だったところは、斜面を利用して増築した客室まで、それなりに長い階段を昇ることだった。80歳になった義母にとっては食事や風呂のたびにこの階段を上り下りすることは、決して楽ではない。宿の側もそれを認識しており、ウェブで予約を入れる際にも、階段があるけど大丈夫であるということを、テキスト入力で宣言することが求められるほどだ。

今回、「おばあちゃんが辛そうだったらお前が背負って階段を上れるよな?」と聞いたときに息子2号が笑顔で大きく頷いてくれた。それがなによりも、今回の温泉の収穫だった。実際には義母も頑張ってくれたけどね ^^;