粥村で聞いた話

鳥を見たり見なかったり食べちゃったり

モダンタイムス

伊坂幸太郎であってチャップリンではない。念のため。ネタバレも含みますので、ご注意を。

 

ワタクシに本の批評なんて出来ないし、あらすじを解説するにも読み込みが浅い。しかし気になることはメモしたい。そんな欲求から、時々読んだ本についてメモをしておこうと思う。

誰かの役に立つかというとそんなことはないだろうが、これが人生なのだ。

 

これが人生。

そう思うきっかけが、モダンタイムスの上巻に ある。

 

人生は要約できない。

 

人生というものは要約してしまうと、結婚したとか子供が生まれたとか、節目の記録だけになってしまいがちだ。しかし本当の人生とはそういう部分ではなくて、もっと日常の些細なこと、昨日食べた駅の立ち食い蕎麦だとか、何かうまくいかないことがあってやけ酒を飲んだこととか、きれいなお姉さんと目が合って嬉しいとか……。そんなこと伊坂は書いていないが、そういうところひとつひとつが人生だ、ということ。
これは何も真新しい考え方では無いが、共感できた。今風にかつ私的なバイアスがかかった状態で言えば、つまりfacebookは全然人生ではなくて、むしろTwitterのほうが人生に近い、ということじゃないだろうか。

 

そして思いつきで書くこのブログもまた、人生だ。(正当化)

 

下巻では気になるものの一つに、占いメールがある。

大石の下心に協力する形で手を出してみた占いサイト。しかし渡辺は姓だけ偽って安藤拓海として登録してみる。するとかなりおかしな占いが毎日届き、時に渡辺が奇跡的に危険を回避する助けとなったりする。安藤という姓はこの物語で重要な鍵であるため、ますますこの占いサイトは超越的な存在なのではないかと想像出来る。
元々前作である魔王からして、超能力の存在が前提となった作品である。このため、超越的な占い、という存在にも読み手であるワタクシはなんら疑念を抱かない。
ところが、だ。実はこのサイト、先輩プログラマーの五反田が、やっつけでこしらえたサイトだった、という衝撃の事実。あるいは笑劇の事実。
なんたる真相。そんなものを信じた渡辺が滑稽に見えるかというと……そんなことはない。事実としてこの占いは何度も渡辺をピンチから救っている。結果は揺るがない。
ここに、伊坂の真骨頂のひとつがあると思う。

 

真実は一つじゃない。

 

ところで伊坂作品によく出てくる、足が悪い田中氏がここにも出てくるが、あまり重要な役割は得られなかったようだ。そして渡辺の妻の名前が佳代子なわけだが、これってあのオーデュボンの佳代子との関係は?

この作品の中にその答えは無い。

こういったキャラクターの作品を超えた出演、みたいなのが伊坂の特長のひとつであるため、メモを取りながら読まなければならず、読む速度をますます遅くしているわけだが、それでもメモを取りながら読むことは、実はワタクシの性に合っている。

というわけで、この1年半で(たぶん)18本目となる、伊坂幸太郎作品も、やっぱり満足感を味わえるものなのでした。